やりすごし

引き続き「知の技法」から。「やりすごし」。
ビジネスの現場では上司などから指示されているにもかかわらず、何もやらない「やりすごし」が見受けられると言う。この現象を高橋伸夫氏がモデルを用いて説明している。結論は「やりすごし」はビジネスマンの合理的な行動ということだ。

彼の論理はジャンケンを事例としてモデル化している。要約すると、AさんとCさんがジャンケンでかけを行うとする。事前の情報や経験によりAさんはCさんにかなりの高い確率で勝てる。そこで周りの人がさらに強いDさんとジャンケンのかけをすることを勧める。しかし、AさんはDさんの情報がなくDさんには勝てないことがわかっている。

そうすると、Aさんがとるべき尤も賢い行動は、Dさんとの対決をひたすら避け「やりすごす」ことだと言う。つまり、AさんはDさんと対決する必要が全く無いのであるから、周りがなんと言おうと「やりすごす」ことが合理的ということになる。

ひとの流動も激しい。全く業務を知らない上司が異動してくることもある。その際にも非合理と判断される指示に関してはうまく「やりすごす」事例も多く見られるという。これにより職場がぎくしゃくすることなく、良い指示だけが濾過されることになる。

つまり組織の中における「やりすごし」には、仕事の過大負荷や上司の低信頼性に対処して、組織的な破綻を回避するという注目すべき機能もあるのです。

ということだ。ただ、ひとを突き動かすものは単なる損得だけではない。この「やりすごし」がマイナスに働く状況では「動機づけ」が重要だ。そこの見極めと使い分けができるのが良いビジネスマンということだろう。