答えの無い問題集

総務省事業政策課長谷脇氏の新作を読む。昨年の「モバイルビジネス研究会」における提言、本年の「通信プラットフォーム研究会」において議論を始めるテーマを中心に、「世界一不思議」な日本のケータイ業界のビジネスモデルについて書かれている。

世界一不思議な日本のケータイ

世界一不思議な日本のケータイ


モバイルビジネス研究会だけではなく、他のさまざまな研究会においては、多くの業界関係者からプレゼンが行われ、議論が繰り返されている。そのプロセスで集めた情報や知見に基づく内容なので、的確に業界の問題があぶりだされている。

また、上記の研究会のすべての資料、議事模様、さいごのまとめは、総務省のホームページにほぼリアルタイムでアップロードされている。それは膨大な量。内容も関係者以外には難しいケースもあるのかもしれない。

本書はそのような膨大な資料を読まずに、わかりやすく業界の問題が理解できるという点で価値が高い。しかし、どうだろう。わずか5年前には日本のケータイは最先端と傲慢にも業界全体で世界に自慢していた。それが、いまや「世界一不思議」と言われる。何が不思議にさせたのか? 

少なくとも世の中の議論を見る限りは、携帯端末メーカーの国際競争力にあることは間違いなかろう。これだけハイエンドのプロダクトを作り続けている日本の携帯端末メーカーの世界シェアが低いのは、「世界一不思議」だろう。また、欧米はついに3G(HSPA)が立ち上がり始めたことでモバイルブロードバンド時代の到来と喜んでいる。そのなかで欧米で人気があるコンテンツは、ケータイ用のコンテンツではなく、FacebookMyspaceなどのインターネットコンテンツ。つまり、Walled Gardenと呼ばれる垂直統合型のビジネスモデルをとばして、ビジネスモデル自体もインターネット型の水平分離に突入してしまった。この動きに遅れれば、最先端という時代が終わったといわれても納得できる。

本書はこういう時代認識のもと、ケータイ業界の問題について、たいへん丁寧に解説している。ただし読み続けると、多くのクエスションマークが浮かぶ。それは、「問題については、よくわかっている」。「で、答えは?」

受験時代、「答え」を丁寧に解説する問題集は良い参考書だと言われてきた。わかりやすく「問題を解説するが模範解答の無い」参考書があったかは思い出せない。